※施設慣れ?したおばあさん【前編】の続きです。
そして早番だったある日。
いつもオーバーアクションの僕だったが、
その日はあえてクールに入室して
トイレの扉に貼り紙を貼ってみた。
トイレに行きたくなったときは
いつでも声かけてください。
協力させていただきます。
スタッフ一同
おばあさんは一生懸命貼り紙を見て、ちらっと僕を見る。
僕は親指を立てにっこり。グッジョブと言わんばかりに。
どうせ言ったところで遠慮するんだもの。
何も言わず、視覚に訴えかけてみようじゃないか。
後はおばあさんがこれを読んでどう感じるかだ。
…
なんと効果はすぐに出た!
朝食後、彼女は僕に訴える。
『便が出たいんだけど…』
きたきた~!僕のオーバーアクション再燃!
「手伝いますよ!てかこの右足さえあれば
ご自分でトイレ行けますって。僕はなるべく
痛みがないようにお手伝いするだけです!」
彼女は上手に右足だけで立ち、トイレにちゃんと座ってくれた。
僕はコールの場所を伝えて、席をはずして廊下で待つ。
ドキドキ、ドキドキ。
緊張しちゃって
仕事どころじゃない。
これが出産を待つ旦那さんの心境なのか?(笑)
そうなんだ。
おばあさんにとっては新たな人生の始まりじゃないか。
(正確には再出発かな)
時間はそれほどかからず
すぐにコールが鳴った。
どうやら安産だったらしい。
僕はおばあさんの元に駆け寄ると…。
便器の中には、それはそれは
可愛い玉のような赤ちゃんがwww
僕は嬉しくって心の中で名づけ親になってみる。
(生まれてきてくれてありがとう。
今日からお前は【うん子】だよ)
彼女は『よかったぁ~』とすごく良い表情を見せ、僕に微笑みかける。
その喜びの表情を見て、僕は思わず「グッジョブ!」と言ってしまった。
介護短歌
…
なんて。実はこの話にはまだ続きがあり。
これからが彼女の主体性の復活を物語る。
おばあさんは調子に乗ったのか僕に話しかけた。
『服が汚れてて。風呂に入りたいんだけど…』
僕は喜びを堪えて冷酷?に切り返す。
「残念。今日は寝て入る風呂(特浴)はないんですよ。
…でも。座って入る風呂(一般浴)ならあるんだけど…」
おばあさんはしばらく考えて返事した。
『じゃあその風呂に入ってみようかな』
そして午後になり入浴の時間。
おばあさんは右手を使い、なるべく自分で服を脱ぎ
脱いだ服は、もちろん洗濯機の中に入れてくれた。
そして自分の意思で上手にお風呂に入ったのだった。
トイレやお風呂を通して、自分でできることの
喜びと必要性を思い出しつつあるおばあさん。
今までやりたいことを我慢させましたね。
これからはやりたいことやっていいんですよ。
動く右側を使って、できないところは僕たちが
協力しますから。あなたらしく生きてくださいね。
介護短歌
遠慮して
我慢していた
主体性
介護の気づきが
活きるを引き出す
これからがスタートです。
ここからが努力の始まりです。
僕たち介護は、彼女が痛みを苦痛って思わないように
自分でできることの喜びと必要性を感じてもらえるように
彼女の【できること】を信じて、支援を続けていかなきゃ。
だって。
いつでも声かけてください。
協力させていただきます。
って約束したんだから。