新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017

冷たい介護


僕は優しい介護さんじゃないのかも。
どちらかというと冷たい部類に入るかな。

 

ていうか。

 

決して無理はさせない。危険なことはやらせない。
高齢だからと可哀想に思って同情して。常に介助して。
あなたは僕たち介護に任せればいいんですよ。って。

 

そんな『お節介護さん』にだけはなりたくないのだ。

 

(もちろん時と場合によりますが…)

 

深夜2時。物音がしはじめる。
どうやら目が覚めたおばあさん。

 

普通に起きたならトイレかなって思うけど
なんか落ち着かない。聞けば『家に帰る』の
一点張り。俗に言う【不穏】【帰宅願望】ってやつ。

 

とりあえずありがちな対応【トイレ誘導】をする。
だが、『ここじゃない!』って言われてしまった。

 

当然か。連れてかれた所が家じゃなくて、トイレだったんだもん。

 

そこでまたありがちな対応【時間の説明】をしてみる。
だけど通用するはずない。てかむしろ興奮している様子。

 

これまた当然。2時なんてなおさら帰らなきゃって思う時間だもん。

 

このままいけば【不穏のため夜間は不眠】ってなるのかな?
それとも【夜間不穏のため付き添って対応】って感じかな?

 

それじゃ面白くない。

 

「眠れない日もあるよね」で片付けてしまっては
眠る可能性ってのを僕が消してしまうではないか。
とりあえずもう一歩踏み込んでみようじゃないか。

 

…。

 

家に帰りたいんだもの。帰らせてみるか。

 

いつもは車椅子使用で、
手引きでなんとか歩行できるおばあさんなんだけど。

 

僕は【徘徊】に付き合うつもりは毛頭ない。
帰りたい気持ちを純粋に支援したいのだ。

 

だからおばあさんを介助なしで歩かせた。
(後ろから腰に手を添えてはいるけどね)
帰る方向だけ教えて、彼女の思うままに。

 

ふらふら~っと歩き始める。
ホント転びそう。実に危険。

 

でも。

 

つまづいたっていいじゃないか。人間だもの。

 

うまく歩けず彼女が、僕に手を差し伸べようとする。
でも知るもんか。僕は一緒には帰れないんだから。

 

怪我したら大変だから、転びそうになれば支えるが。
ふらっとしたくらいなら自分の力でなんとかしてもらう。

 

冷たいようだが、とにかく彼女の主体性に委ねてみた。

 

すると。おばあさんったらだんだん困ってきて。
ついにはへたれこむように床にお尻をついたのだ。

 

「ダメだぁ~、帰れない~。歩けねぇ~!」

 

「どうしたんすか!ファイトっすよ!自分の足で帰らなきゃ!」

 

意味の分からない体育会系の応援をしてみるが。
本人は歩いて帰れないことに気づいた様子である。

 

「お前さん、一緒に帰ってくれないか?」

 

僕は普通に答える。

 

「ごめんなさい。まだ仕事があるから帰れません…」

 

彼女は食い下がる。

 

「バス!バスはないんか?バスは?」

 

「あ~。今は夜中だからバスはないですよ。
夜が明ければあるんですけどねぇ…」

 

嘘はついていない。そう、僕は正直に答えてるだけ。

 

「そっか。バスはないのか…。じゃあ帰れないなぁ」

 

ここで僕は提案。

 

「朝になれば始発のバスがでますよ!
僕も朝には仕事終わるし。そしたら
一緒に帰ることもできますよ~」

 

僕の言葉にようやくおばあさんは安心。

 

「そっかぁ。じゃあ朝まで待とうか」

 

「そうしますかね。じゃあこれから寝床を
用意しますんで、朝まで休みましょうか」

 

介護短歌

こちらから
促し・説明
するよりも
主体性を
引き出す支援を

 

実はこのおばあさん、『うんこ』が出たかったようです。
便秘はよくありがちな不穏を起こす原因のひとつ。

 

それはなんとなく分かっていたのですが。
トイレに座れないほど落ち着かなかった様子。

 

帰ろうとして、試行錯誤して
今は帰れないと悟った彼女。

 

『寝る前にトイレ行きません?』
の一言でトイレに行ってくれて
うんこをたくさん出してくれて。

 

その後は朝まで眠りましたとさ。


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