僕は優しい介護さんじゃないのかも。
どちらかというと冷たい部類に入るかな。
ていうか。
決して無理はさせない。危険なことはやらせない。
高齢だからと可哀想に思って同情して。常に介助して。
あなたは僕たち介護に任せればいいんですよ。って。
そんな『お節介護さん』にだけはなりたくないのだ。
(もちろん時と場合によりますが…)
深夜2時。物音がしはじめる。
どうやら目が覚めたおばあさん。
普通に起きたならトイレかなって思うけど
なんか落ち着かない。聞けば『家に帰る』の
一点張り。俗に言う【不穏】【帰宅願望】ってやつ。
とりあえずありがちな対応【トイレ誘導】をする。
だが、『ここじゃない!』って言われてしまった。
当然か。連れてかれた所が家じゃなくて、トイレだったんだもん。
そこでまたありがちな対応【時間の説明】をしてみる。
だけど通用するはずない。てかむしろ興奮している様子。
これまた当然。2時なんてなおさら帰らなきゃって思う時間だもん。
このままいけば【不穏のため夜間は不眠】ってなるのかな?
それとも【夜間不穏のため付き添って対応】って感じかな?
それじゃ面白くない。
「眠れない日もあるよね」で片付けてしまっては
眠る可能性ってのを僕が消してしまうではないか。
とりあえずもう一歩踏み込んでみようじゃないか。
…。
家に帰りたいんだもの。帰らせてみるか。
いつもは車椅子使用で、
手引きでなんとか歩行できるおばあさんなんだけど。
僕は【徘徊】に付き合うつもりは毛頭ない。
帰りたい気持ちを純粋に支援したいのだ。
だからおばあさんを介助なしで歩かせた。
(後ろから腰に手を添えてはいるけどね)
帰る方向だけ教えて、彼女の思うままに。
ふらふら~っと歩き始める。
ホント転びそう。実に危険。
でも。
つまづいたっていいじゃないか。人間だもの。
うまく歩けず彼女が、僕に手を差し伸べようとする。
でも知るもんか。僕は一緒には帰れないんだから。
怪我したら大変だから、転びそうになれば支えるが。
ふらっとしたくらいなら自分の力でなんとかしてもらう。
冷たいようだが、とにかく彼女の主体性に委ねてみた。
すると。おばあさんったらだんだん困ってきて。
ついにはへたれこむように床にお尻をついたのだ。
「ダメだぁ~、帰れない~。歩けねぇ~!」
「どうしたんすか!ファイトっすよ!自分の足で帰らなきゃ!」
意味の分からない体育会系の応援をしてみるが。
本人は歩いて帰れないことに気づいた様子である。
「お前さん、一緒に帰ってくれないか?」
僕は普通に答える。
「ごめんなさい。まだ仕事があるから帰れません…」
彼女は食い下がる。
「バス!バスはないんか?バスは?」
「あ~。今は夜中だからバスはないですよ。
夜が明ければあるんですけどねぇ…」
嘘はついていない。そう、僕は正直に答えてるだけ。
「そっか。バスはないのか…。じゃあ帰れないなぁ」
ここで僕は提案。
「朝になれば始発のバスがでますよ!
僕も朝には仕事終わるし。そしたら
一緒に帰ることもできますよ~」
僕の言葉にようやくおばあさんは安心。
「そっかぁ。じゃあ朝まで待とうか」
「そうしますかね。じゃあこれから寝床を
用意しますんで、朝まで休みましょうか」
介護短歌
こちらから
促し・説明
するよりも
主体性を
引き出す支援を
実はこのおばあさん、『うんこ』が出たかったようです。
便秘はよくありがちな不穏を起こす原因のひとつ。
それはなんとなく分かっていたのですが。
トイレに座れないほど落ち着かなかった様子。
帰ろうとして、試行錯誤して
今は帰れないと悟った彼女。
『寝る前にトイレ行きません?』
の一言でトイレに行ってくれて
うんこをたくさん出してくれて。
その後は朝まで眠りましたとさ。