新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017

施設慣れ?したおばあさん【前編】


前のユニット型の特養にいたときの話。

 

10年くらいデイサービスやショートステイを利用しながら
2年くらい老人保健施設の入退所を繰り返していた、
左麻痺で耳の遠いおばあさんが、僕たちの施設に入居してきた。

 

前にいた老健からの情報がこれである。

 

入浴は特別浴(寝て入る風呂です)。
排泄はオムツ(立つと痛がるから)。
痛みがあるので基本的に全介助。
食事は自分で食べるが、内向的で
居室で過ごすことが多いとのこと。

 

施設慣れ?をしているようで完璧に
介護さんにお任せモードじゃないか。

 

認知症はそれほどないのだが、これが逆にやっかい…。
ホント前の施設で植え付いた習慣があるなって印象。

 

右側はちゃんと動くから何かできるはず!
とは思うのだが、当の本人にやる気がない。
とはいえ、尿意便意ははっきりしてるようで
オムツにしたらコールを押してくれるのだ。

 

前の職員、排泄後にコールって教えやがったな…。

 

たしかに痛いのは苦痛。それを無理してまでとは思わないが。
病気だもの、多少痛みがあるのは当然のことじゃないか。

 

それで受け身ばかりの生活を余儀なくされて、
表情が暗くなって、やる気を失っていって…。

 

自分たちで廃人作って『全介助が必要』はないだろ…。

 

てか、耳が遠くて脳梗塞の後遺症を患えば内向的にもなるわな。

 

それでどんどんできないことが増えれば
籠りきりになってもおかしくないよな…。

 

でも、僕たちは感じた。

 

前の施設では【内向的】と言われたおばあさんだが、
話せば面白いことを言うこと。良い表情を見せること。

 

これは、前の施設の情報を鵜呑みにしちゃいけないな。

 

僕はまず彼女が何かをするたびに
オーバーアクションで誉めまくった。

 

「うお~、右足だけで立てる~。
すごいっすね!まだまだ現役!」

 

「うはwww立ってくれると介助が楽ですよ!
もうほとんど自分でできてるじゃないっすか!」

 

最初は表情ひとつ変えずに
『全然ダメだて、左が効かなくて』
と言ってあしらわれていたのだが。

 

そのうち
『ふふふ、そう?』
って、笑ってくれた!

 

これはチャンス!と思い、トイレにもお誘いしてみる。

 

「これならトイレも大丈夫!行ってみません?」

 

『足が痛いから無理』

 

…玉砕。そんなもんである。

 

そんなある日、おばあさんが気になる行動をした。

 

おばあさんが僕に『これを洗濯してほしい』
タオルを見せるのだが、受け取ろうとすると
『持ってかないで~!』と渡してくれないのだ。

 

普通に考えればおかしな行動である。
あなたが持ってたら洗濯できないやん。

 

でも。その理由は推測できた。
(これは勝手な僕の想像です↓)

 

たぶん前の施設ではタオルをスタッフが有無も言わさずに
取り上げてきたのであろう。彼女の意思を聞こうともせず。

 

そう考えると、おばあさんが可哀想になってきた。

 

施設慣れしてるんじゃない。
施設が馴らしたんじゃないか。
従順なペットを育てるように。

 

介護短歌

馴らされて
生きる力を
見失い
主体を失い
笑顔を失う

 

僕は洗濯機の前まで連れていき
「ここで洗うんですよ」と話した。

 

すると、大事そうに握っていたタオルを洗濯機に入れてくれた。

ついでに洗剤を入れてもらい、操作を教えてみたら、
おぼつかないながらも自分で洗濯機を回してくれたのだ。

 

『ありがとう、ありがとう』

 

そんな…。あなたが洗濯したんですよ。
僕はそれをちょっとお手伝いしただけ。
お礼を言うならむしろ僕のほうじゃないか。

 

僕のオーバーアクションは続く。

 

『部屋から出るのはご飯くらいって聞いてたけど
まだ現役!これからは洗濯任せてもいいですか?』

 

『それは無理』

 

突っ込みみたく間髪入れずに返答。
が、明らかに表情はほころんでいる。

 

その表情を見て「これならいける!」と僕は思った。

 

※”施設慣れしたおばあさん【後編】”に続きます。


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