早番で出勤した日の話。
新聞に仏壇・墓石の広告が入っていた。
幸いまだ誰も起きてきていないぞ…。
僕のイタズラ心がうずく。
僕はおもむろに仏壇・墓石の広告をテーブルに広げて
皆さんが起きてくるのを待った!(起床介助に回った!)
『なんだぁ~?縁起でもない!!』
『これを見て選べってことかい!?』
起きてきたおばあさんたちは案の定
仏壇・墓石の広告に食い付いてきた。
「ホント誰が置いたんでしょうね?失礼な!」
僕は一緒になって怒ってみる。
が、その一方で軽く冗談を言う。
「で、皆さんはどのお墓に入りたいですか?」
こういう冗談が通じるところが
おばあさん達のすごいところ。
ある人は
『う~ん、どれがいいかなぁ。って何を選ばせるんだい!』
と絶妙なノリつっこみを見せ。
またある人は
『いや、まだ世話になるわけにはいかないよ!』
とはっきり言ってくれる。
何故かとても活き活きしている。
そう、皆まだ生きたいのである。
そんなおばあさんたちに僕は伝える。
「皆さんは、まだまだこんな物必要ないですね!」
すると、おばあさん達はきらきらした笑顔を見せ
『そうだね~、まだ生きたいもんだね~』
『お前さん、良いこと言ってくれるね~』
と言い出す。
僕は続ける。
「そうですね!あの世に聞いたところ、
今は天国に空きがないそうですよ。
地獄は若干空きがあるそうですが…」
一同大笑い。
『う~ん、地獄には行きたくねぇなぁ』
『天国に空きがないならまだ頑張らなきゃねぇ』
そんな皆さんに僕は便乗する。
「僕もまだまだ皆さんをあの世に送るわけには
いきません!こんな縁起でもない広告なんて
僕がこうやってぇこうやって…こうしちゃいます!」
僕はその広告をぐしゃぐしゃにし、ぎゅうぎゅうに
丸めて、「え~い」って遠くのゴミ箱に投げつける。
一同からは拍手喝采!歓喜の声!!
『よくやった!』
『お前さんはホント良い奴だ!』
これでもうつかみはオッケー。
おばあさん達のハートをわしづかみ。
「さてと皆さん。じゃあ朝ご飯にしましょうか!
長生きするためにちゃんと食べて下さいね!」
いつもより食事が進んだのは言うまでもありません。
介護短歌
【死】の話題
恐れて避けて
通るより
【生きたい】思いを
引き出す会話に
理不尽に見える『死』の話題ですが…。
80年90年生きてきたばあさん達にとっては
笑い飛ばせるテーマなのおかもしれませんね。
と、いうより。
自分はそう長くないと感じている部分があるはず。
だからこそ『生きる』ことに執着していけるのではないか。
だからこそ『生きたい』思いに耳を傾けるべきではないか。
『死』の話題を共有していかないで
どうして『生』を大切にできようか。
そりゃちょいと失礼な話かもだけど…
【死】についての話題を禁句にし、絶対避けて通る
会話や対応をする輩のほうが偽善者だと思います。
僕は『死』をテーマにしながらおばあさんたちと語り合うことで
彼女たちのまだ『生きたい』って気持ちの再確認ができました。
絶対に長生きしてもらいますからね!
覚悟しててください!あなたたちには
まだまだ楽しく生きてもらいますから!!