偶然か必然か、同じユニットで生活していた
古くから付き合いがあったおばあさんたちの話。
近藤さん(90歳)と入田さん(90歳)。(仮名です)
ホントに長い付き合い(50年以上!?)だったらしく
「それはそれは仲が良かった」と、近藤さんは自慢げに言う。
が、入田さんのほうは認知症状が強く現れてしまい…。
施設で再会を果たしたときはもう
近藤さんのことなんて忘れていた。
そんな入田さんを見て、しっかりしてる近藤さんは
「ああはなりたくない」
と、諦めムードでちょっと馬鹿にした態度をとっていた。
そんなある日、入田さんが夜間に大騒ぎ!
とはいうものの、そんなに動けるわけもなく
ベッド上で服を脱いだり、柵に足をかけたり、
布団をひんむいたり…。そして大声で叫ぶ!
『家に帰る~!』
(夜勤の方、ホントお疲れ様でした…)
日中もその不穏は収まることなく、表情も険しい。
ベッドで横になってても、そりゃもう転落する勢いでw
朝・昼食とあまり手をつけず、食器を投げつけるのだ(笑)
入田さんの理不尽な態度を見て
旧友の近藤さんは少しご立腹。
近藤さんに呆れられてしまう入田さんも可哀想だし、
入田さんの悪い部分を見ちゃう近藤さんも切ないだろうし…。
何よりトラブルがあったら大変だろうからと、
二人の席を引き離して生活をしてもらっていた。
そんなこんなで夕飯前。
『家に帰る~!』
入田さんはあいかわらず怒りモードだ(泣)
そこで僕はふと思った。
家のことを思い出して帰りたくなってんだな…。
思い出して…か。そうだ!これは使えるかも!!
僕はリビングでくつろぐ近藤さんの近くに
あえて不穏の入田さんを連れていった!
そして近藤さんの前で聞いてみる。
『入田さん、この人分かりますか!』
すると。
『近藤さんだ~~~!』
まさかの入田さんの発言に、近藤さんは喜びのあまり興奮状態!
「そうだよ、そう。近藤だよ!入田さん分かるかい!?」
『あぁ~分かる~』
そう言うと、入田さんの手が伸びる。
近藤さんも手を伸ばし、がっちり握手。
「あ~、よかった~!!雪が解けたら一緒にどこか出掛けようね!
あんたも病気に負けんじゃないよ!一緒に頑張ろうね!!」
その言葉を聞いた入田さんは、にっこり微笑み頷いた。
感動の再会を果たしたばあさんず。
僕の胸に温かな気持ちが込み上げ、
思わず目頭が熱くなってしまった。
介護短歌
「家に帰る」
家族や友を
思い出し
案じる気持ちは
不穏にあらず
職員を困らせていた入田さんは
近藤さんにとってかけがえのない
友人として再び戻ってきました。
自分らしさを取り戻した入田さん。
そしてそれをとても喜んだ近藤さん。
これを不穏と言ったらバチが当たりますね。