新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017

お前さんの言うとおりになった


僕が昔担当したおばあさん(当時74歳)の話。

食欲不振・高熱が続いたおばあさん、
体力的に衰え、ついに肺炎で入院した。

もともと食は細いほうだったが
好きなものは何故かペロリと食べる。

甘いものやごちそうには目が無く、つい前の月だって二人で
100円ショップに行った帰りに、アイスクリームを喜んで食べていた。

動作が遅いおばあさんだが、目の前の
菓子やジュースにはすっと手が伸びる。

アイスクリームをほおばってたと思ったら
僕のたこ焼きの数がひとつふたつと減っていくのだ。

もちろん見て見ぬ振りをしたけど(笑)

施設内でもペットボトルを置こうもんなら
自分でついで飲んだりする。菓子の袋だって開ける。

どこにそんな力があるんだろう、と感心さえした。

おばあさんは失禁をしない人だった。
尿意をコールで伝えてくれた。

しかも結構頻回に(笑)

だが、その気持ちがあったからこそ、足腰が弱いものの
衰えることなく、現状を維持できていたのだと思う。

食が細い時、私はよく彼女にこう言ってた。

「おばあさん、食べないと体が弱って病気に負けますよ
何か食べたいものとかないんですか?」

すると彼女はこう言った。

「寿司が食いてぇなぁ」

そんな彼女の願いを叶えることなく
彼女は入院を余儀なくされてしまった。

入院してしばらくして、お見舞いに行ってみた。
おばあさんは点滴をして、食事は禁止になっていた。

安静の名のもとに、オムツが当てられ、
両手にはミトンをさせられていた。

「お前さんの言うとおりになった」

彼女の第一声だった。

「大丈夫!退院したら、快気祝いに
寿司とか食いに行きましょう!」

「この手についてるのはずしてくれ、頼むからはずしてくれ」

「…点滴してるからそれは無理です…治療だもの…」

何自分で矛盾したこと言ってんだよ…。

「治療なんかいいから帰してくれ。
一緒に連れてってくれ」

「そ…それは…」

言葉に詰まる。

「便所に連れてってくれ、ベッドから起こしてくれ」

僕にできることは…と思い、看護婦さんに聞いてみた。

「トイレに行きたいって言ってるので
連れてっていいですかね?
そのついでに院内をぐるっと
回って来ちゃダメですかね?」

「今は安静なんで無理です」

一蹴された。しかも、
「家族の方ですか?」
と聞かれる始末だった。

担当の介護で何が悪い!
じゃあ、お前が病気になったときは、
俺が手足縛ってオムツ当ててやろうか!

…と言い返してやりたかったが、言えるはずもなく。

後ろ髪を引かれる思いで病院を後にした。

連休が続いてある日の午前、また見舞いに行った。
少しは元気になってるかな?と期待を込めて。

が、ベッドにはもうおばあさんの姿はなかった…。

治療という名のもとに行われる安静。
理解はできるけど納得なんてできない。

うまいものなら食うかもしれないのに食事を禁止され、
その代わりの栄養を点滴で入れるからって拘束され、
そしてベッドのみの生活。トイレにすら行かせてもらえない…。

自分のやりたいことがあって、介助者も求めようとしても
ミトンをした手じゃコールなんて押せるわけがない。

苦しむ彼女が最期に目の当たりに
したものは何だったんだろうか?

治療中に、おばあさんと
楽しい話なんて全然できなかった。

はずしてくれ、帰してくれ、便所行かせてくれ…

そればかりだった。

治療は確かに必要なこと、それは分かっている。
だが、心を奪っていって、その人は元気になるのか?

「お前さんの言うとおりになった」

この言葉が僕の胸を締め付ける。

僕はそうなることを予想してたわけじゃない。
そうしたくなかった、そうなってほしくなかったのだ。

介護短歌

ターミナル
介護と医療の
その狭間
何を望んで
何を願うか

おばあさん、あなたの一言を
思い出すたびに胸が苦しくなります。

だからこそ。

僕は介護を諦めたくない。


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