前回は「ヘンな姿勢のままで放置されると、横隔膜と胸郭の動きが阻害され、(安静腹式)呼吸が抑制されていく」ということまで説明しました。もうしばらく呼吸抑制のお話を。
身体変形のために横隔膜と胸郭の運動が抑制されると、呼吸していても一回の呼吸で肺に出入りする空気の量が少なくなります。これを「1回換気量の低下」と表現します。でも、ヘンな姿勢でいても身体が必要としている酸素の量は一緒です。すると1回換気量が低下していますから、呼吸状態としては「呼吸回数が増える」んですね。私たちが健常で安楽な腹式呼吸をしている時には、1分間に12回~16回程度の呼吸をしています。私自身の日ごろの経験だと、ヘンな姿勢で座っている方は1分間呼吸数が20回以上、変形して寝たきりになっている方で呼吸の早い方は、1分間呼吸数が30回に達する方がいらっしゃいます。1秒で吸って1秒で吐いているんですよ!それも、24時間ずーと!苦しいだろうなぁ、と思います。
そうした状態がずっと続くと、さらに変化が起きてきます。それは、「胸式呼吸が始まる」ということです。腹式呼吸だけでは効率よく呼吸できていませんから、胸式呼吸を使ってでも、となるわけですね。私たちが日ごろ安静にしている時は、胸式呼吸はしていません。例えば短距離でも全力疾走した後なんかに、膝に手をつきながら『ヒーハァー、ヒーハァー』と肩を上下させながら呼吸している状態ですね。それが胸式呼吸をしている状態です。胸式呼吸というのは、横隔膜が下方に下がることで吸気するだけではなく、筋肉の力で肋骨/胸郭を上に引っ張り上げ胸腔体積を増やして空気を吸おうとする呼吸です。
で、腹式呼吸を行う横隔膜ではなく、胸式呼吸を行う筋肉=肋骨/胸郭を上方に引っ張り上げる筋肉=胸式呼吸筋/呼吸補助筋にはどういう筋肉があるかというと、下表のようになります。
胸鎖乳突筋
胸鎖乳突筋・斜角筋群・外肋間筋・大胸筋・小胸筋・肩甲挙筋・肋骨挙筋・僧帽筋上部繊維、、、
あげればキリがなさそうですが、特に最初の3つ「胸鎖乳突筋・斜角筋群・外肋間筋」が代表としてあげられることが多く、特に胸鎖乳突筋は大代表扱いとなります。腹式呼吸が抑制され胸式呼吸をし始めると、『上記筋肉群が全て緊張し続ける』という事になります。
ちなみに胸式呼吸筋の代表格/胸鎖乳突筋は、安静に腹式呼吸している時には緊張していません。階段を駆け上がってきて「ヒーハァー」の『ヒー!』っていってる瞬間は、カチッと緊張しています、自覚はできていないと思いますが(^^; 胸式呼吸時の胸鎖乳突筋の緊張を、ご自分の身体で確認してみませんか?
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イラストに見るように、胸鎖乳突筋は耳の後ろの「頭蓋骨乳様突起」から起こり、首を斜めに走って、胸鎖関節部に付いています。
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自分の胸鎖乳突筋部に自分の指で触れます。耳たぶの斜め下あたりです。硬くはなっていません。
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口を細く細くすぼめます。
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細くすぼめた口から、一生懸命努力性に空気を吸い込みます。力んで吸い込んでみてくださいね。
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その瞬間に指の下の胸鎖乳突筋が、キュー!と硬くなることが触れます。これが胸郭を引っ張り上げようとしている胸鎖乳突筋の緊張です。