新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017
高口小

「“寝たきり老人”は日本だけ?」(2回目にして長文)


 このブログタイトルでは「拘縮は日本だけ?」とありますが、そもそも「“寝たきり老人”は日本にしかいない」という議論が以前からあります。私自身は日本から一歩も外に出たことがない人間なので海外の実際の様子は知りません。

 様々な情報に触れることしかできないのですが、大熊由紀子氏の『「寝たきり老人」のいる国いない国―真の豊かさへの挑戦』と言う本が出版されたのが1990年です。要するに福祉サービスが豊かで弱者の尊厳を守る北欧とそれらが貧弱な日本、という今でも時に語られる内容です。大いに参考にしたいところではありますが、それにしても「?」という思いは残ったものです。

 ところが1998年7月28日、読売新聞に興味ある記事が載りました。ある病院長さんのヨーロッパの高齢者ケアに関する視察についての感想でした。


『驚いたことに、寝たきりや経管栄養の方々は極めて少ない。どうしてかと尋ねると、「歳をとり、食事を口に運んでもらっても自分で飲み込むこともできないほどに弱ってきている人には、あとは何もしない。」とのこと。その時はなぜそのようなことが許されるのかと驚いたが、欧米では各国とも似たような状況である。自然に任せるのが欧米流、家族の希望を優先して管をつないででも生き長らえさせるのが日本流、というところだろうか?』


 大体、こんな感じです。この記事を読んで、なるほど!と思った、と書いたら正直すぎますかね?(^^; これはそうそう単純な話じゃないぞ、と。

 さらに時は流れ、2007年8月に三好春樹さん×高口光子さん対談集『リハビリテーションと言う幻想』という本が出版されました。その中で高口さんから訪欧記として、


高口:食べなくなったということは、本人が食べたくなくなったということで、私たちはそれ以上の介助はしない、というんですね。私が「そんなことをしたら死んじゃうじゃないですか」と言ったら、「死ぬことは神に召されることで、神の祝福であり、何も否定することではありません」という返事が返ってきました。神に召される人にあえて人為的に何かをするのは、神への冒涜だからしてはいけないというんです。そうなのかあと、自分なりにそういう考え方もあるんだと理解しようとしていました。でも何かひっかかります。
 そのあとでランチがありました。私は、先ほど説明してくれた女性に「サービス利用者や家族の中には、どんなに神様に叱られてもいいから、一日でも長生きしたいという人はいないのですか」という質問をしました。そうしたらこういう答えが返ってきました。
「うちの国は、鼻にチューブをいれることも胃に穴をあけることも、回復して税金を払えると想定できる人にはします。でも、税金を払える国民になってくれないならしません。あなたの国は経済的に豊かだから延命処置ができるんです。この国ではそれができるほどの国力はありません」。


高口

1月、互いにセミナー講師として札幌で偶然再会した高口さん
「肩組もうぜ~!」と相変わらずお元気です(^^;

 このツッコみは、さすが高口さんですw ただ、私自身はまだ納得しきれず高口さんが出版後間もないころ新潟にいらっしゃった機会に、直接質問させてもらいました。つまり、北欧では「主体性尊重とか尊厳尊重」というのは『タテマエ』であって、「この国ではそれができるほどの国力はありません」というのが『ホンネ』ということなのか?という疑問です。そういう意地悪な私の質問に対する高口さんのお答えが、


 「神様うんぬん」と「経済的負担」ということについて、別に「本音と建前」ということではないと思う。「宗教と経済」について、欧米では長い歴史の中で「為政者~権力者」が両方とも掌握しながら「国」や「文化」を作ってきた。その長い歴史の中で、「宗教による理由付け」も「経済による理由付け」も、両方とも「国民にとっては身に染み付いたもの」となっているのが、欧米の文化である、ということだと思う。
 その点、日本では政教分離が早くから進んでいた(歴史上、政教分離を完成させたのは“比叡山焼き討ち”した織田信長です。焼き討ちにより、宗教勢力が政治に口出しできないようにはしたが、宗教活動は容認した:大渕)ので、「宗教」と「経済」が一体化しておらず、別々のことと感じられてしまうような文化なのだ、ということだと思う。


 というお答えでした。さすがですね、本当に頭のいい方です(^^;

結論!!
2回目にして長文になってしまいました。まず、拘縮以前に「寝たきり老人は日本だけか?」という問題については、確かに欧米では福祉サービスの質・量と、宗教的意識~権利(尊重)意識、さらに経済的な理由もあって、「寝たきり老人」は少ないようです。寝たきり老人の絶対数が少なければ「拘縮に固まった寝たきり老人」が少ないもの当然とは言えそうです。ただし、確かに「拘縮を進ませないようなケア」が充実している、という点も間違いないようです。

 ちなみにこの日本でも、ここ10年くらいは急速に欧米化してきている、と思いませんか?経管栄養に代表される無駄な延命処置は止めましょう、みたいな。それが、「経済的なホンネ理由」“だけ”で進んでいるのではないことを祈るばかりです。


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