新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017

ブックレビュー 恐れのない組織–「心理的安全性」


エイミー・C・エドモンドソンによる、「心理的安全性」に関する真打ちの一冊です。
心理的安全性とは、大まかに言えば「皆が気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化のこと」と定義されています。なぜ今この概念が重要視されるようになっているのでしょうか?
それは「現代の従業員は、レベルを問わずチームで行動する時間が20年前に比べて50%増加している」からであり、「本質的に異なるメンバーが集まるグループにとって、心理的安全性が欠かせないものとなっている」からだと筆者は述べています。

読んでみると理論だけでなく事例がいっぱい出てきてとても興味深いです。
急激に大きくってガバナンス崩壊してセクハラが多発したUber、変革の激しい携帯業界で失敗したノキア、想定外の事態の中で奇跡的に最悪の事態を逃れた福島原発、環境基準をごまかしたVW、論文の査読のようなプロセスを重ねて作品の完成度を高めていくピクサーの手法などなど沢山の事例が紹介されています。
この本の中で思わずアンダーラインを引いた主な場所を以下に記しておきます。

【心理的安全性とは何か】
筆者がこの研究を始めたとき、「最も高い成果を上げるチームが最もミスが少ない」という仮説を立てたそうです。しかし有能なチームほど、そうではないチームに比べてミスが多かった。分析してみると、「優秀なチームはミスの数が多いのではなく、報告する数が多い!」と気づいたそうです。これってまさにアクシデントとインシデントの話ですね。
誤解されやすいところが、「心理的安全性は目標達成基準を下げることではない」という部分。「むしろ高い目標を達成するために必要なのが心理的安全性なのである」と書かれていて、ここは結構大事な所だなと思いました。
また、「心理的安全性は正直かつ素直に話すことを可能にし、ゆえにお互いに尊敬し合う環境において確立される」と書かれており、お互いを尊重し合うフラットな関係の重要性のことを力説していて共感しました。

【リーダーシップとマネジメント】
ここでは自己開示の必要性について「リーダーは進んで自分をさらけ出し、自分の過ちについて素直に話さなければならない。そうすれば社員も安心して自分の過ちを話すようになる」と書かれています。まさにピーエムシーの主張と完全一致(!)の部分です。「 心理的安全性はリーダーが生み出せる、そして生み出さなければならない職場の特徴である」と書かれています。
しかし、一度リーダーになってしまうと、なかなかメンバーとフラットな関係を保つことが難しくなってきます。「リーダーとメンバーの感覚にはズレが生じやすいという構造的問題」があります。「社会的地位が高まると、周りの要求に応えずとも自分の考えが実現しやすくなるため周りの反応に鈍くなる」そして「社会的地位が低いメンバーは空気を読み、周りと歩調を合わせることで、社内に居場所を築く」という組織にありがちな分断が起こります。
そうならないために、「リーダーは、組織階層の中間に位置する部下の意見を参考にしなければならない。中間は現場のメンバーとも接点が多いため、組織に漂う雰囲気を機敏に察することができる」という提案も読むことが出来ます。

【メンバーシップと組織風土】
ここではリーダーの下にいるメンバー論が展開されます。「メンバーは(心理的安全性の低い職場では)口を閉ざすだけでなく、改善につながるアイデアさえも」言わなくなります。これも本当に介護現場で起こっていることだと実感します。 「大事な局面で従業員が意見を言えずにいることは見た目ではわからない」とも述べており、だから One on One で意見を聞いていく事が大事だと感じました。 「対立(コンフリクト)」については、「理論的には意見がぶつかった方が良い決定ができるし、イノベーションが促進される。なぜなら様々な意見や考え方が確実に掘り下げられるからである」と対立を前向きに利用していくことの重要性が語られます。これは正にピクサーの成功事例のことを言っているのだと思います。

【心理的安全性を高めるための行動】
ここでは実際にどのように心理的安全性を高めていく事ができるのかを検討する章になっています。「失敗するのは構わないが、失敗に気づき分析しそこから学ばないのは容認されない」というのが心理的安全性の肝のようです。
具体例「NASA は間違いを見つけさせる訓練をする。アルマゲドンを見せて間違いが何箇所あるか。リーンフォワード ・フェイルスマート( 積極姿勢を保って賢く失敗せよ)がNASAの最近の考え方」だそうです。
また、航空機のリスクマネジメント「スレッド&エラーマネジメント(TEM)」 と「 COCKPIT resource Management (CRM)」 。どちらのプログラムでも考え方と判断の仕方を教えるそうです 。CRM をモデルとする訓練は医療分野でも広く行われるようになっていて、その目的はコミュニケーションとチームワークの向上を図って患者の安全性を高めること(シミュレーション教育)だそうです。
ある病院では、看護師の前向きな感情を促すために、患者とその家族の写真はもちろん、患者とその子供と孫が書いた絵を飾るそうです。「この病院が大切にしているのはチームメイトが仕事を楽しむことであり、ニコニコと微笑み暖かな気持ちで患者の心に寄り添うこと」だそうです。そうすればここにいるのを患者があまり負担に思わなくなるからだそうです。
Googleでの実践事例。対人関係の不安を減らしていく仕組み。従業員同士で学び合うための仕組み。それがGoogle の 「g 2g ネットワーク」です。6000人を超える Google 社員が進んで時間を提供し同僚が学ぶのを手伝います。一対一でのメンタリング、心理的安全性に関してチームをコーチングし専門スキルを教えるそうです。

【まとめ】

心理的安全性の概念は、メンタルモデルとかファシリテーションとかアサーションとかホラクラシーとか色々な考え方と重なる、とても共感できる内容でした。

医療介護の現場でも役立つ知見がいっぱい入っています。
自分としては「素直さと尊重」が大事、っていうところが一番共感しました。


About the author

斎藤 洋

新潟県在住|介護現場の人材育成支援|介護福祉士・社会福祉士・学士(心理学)・修士(社会福祉学)・日本社会事業大学大学院博士課程在学中| https://twitter.com/hiroshithenet

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