新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017

ブックレビュー『ワークショップ』中野民夫,岩波新書(2001)



・企業研修やまちづくりなど、さまざまな現場で「ワークショップ」という手法が注目されています。参加体験型や双方向性を特徴とするこの新しい学びと創造のスタイルにはどのような可能性があるのか、豊富な事例を紹介しながらその意義を語るのがこの本です(Amazonのレビューを一部改変)。

・この本では、ワークショップを「体験学習」「参加型学習」などと言われている新しい学び方のスタイル、未知の何かをグループ共同で生み出す想像の技法である”と定義し、様々なテーマや手法が展開されているワークショップの体系化を試みています。

1.ワークショップの特徴「ワークショップに先生はいない」

・アメリカインディアンの集会では、輪の真ん中に棒を立てて、倒れた先の人がまず話す、ということをやっていた。 ワークショップ では誰もが「お客さん」でいることは出来ない。全員が先生で全員が生徒、つまり「対等」な立場である。初めから決まった答えなどない。頭が動き身体も動く。辛い事が色々あってもここでは交流と笑いがある。

2.ワークショップの体系

・ワークショップは、現在様々な手法やテーマに枝分かれしているが、共通のベースとしてJ・デューイの教育哲学がある。一方的に知識を伝達される従来型の教育方法では、参加者の主体性を引き出すことがとても難しいが、ワークショップはそれを可能にする。「参加者に様々な問いを投げかけ、参加者それぞれがカードに書いた答えを読み上げ、それについて感想や考えを述べ合う形を繰りかえす方法を試みたところ、『正しい知識を押し付けられる前に、そもそも自分はなぜエイズ問題を考えているのか?』という問いに直面し、それこそ勝手に学びだした」

「『知る』ことは『感じる』ことの半分も重要ではない」:レイチェル・カーソン『センスオブワンダー』

3.実践事例                              

【事例①】・ジョアンナ・メイシ―の「つながりを取り戻す」ワークショップ 

 ①ハードな現実や痛みを健全なものととらえ、              

 ②蓋をしないで安全な場でそれらに向き合う、               

 ③つながる世界のありように目覚め、自己のアイデンティティを大きく広げる、

 ④一歩踏み出してできることをやりはじめる                      

・例えば戦争のような大きすぎて個人で向かい合う事が難しい問題であっても、「どう感じているのか」「何が出来るだろうか」と問い続けることが大切で、「集いあい、問いあうことが大切」である

【事例②】「自分の天職を見つけ出すワークショップ」                 

・大ウソつき大会。自分が純粋にやりたいと思っていることを、思わぬ方向から探るためのエクセサイズ。                        

 ①全員で順に「ウソの自己紹介、ありもしない大嘘で。『自分はハリウッドの大女優です』とか。                            

 ②合図するまで何度もコメントを回す。5回くらい。            

 ③一人が輪の外に向いて残りのメンバーがその人の「うわさ話」をする。噂されている人は、メモを取って考える。ウソのはずなのに、不思議とあたっている!

 ④その他にも様々なワークで仕事観を変えていく事に挑戦(食うための仕事から自分の存在意義の発見、自分の存在意義の発揮へ)。              

【事例③】井上ウイマラの「瞑想、プロジェクション(投影)」           

 ①散歩してひとり一個何か拾ってくる                   

 ②主語をひろってきたものに変えて「私はまつぼっくりです。さっき木から落ちてきました」などと話しあう                      

 ③主語を変えてどんな気持がしたか、話し合う                

 ④落としどころ。主語を変えてもその何%かは自分の話になる。自分を知るためにも世界や対象が必要

4.ワークショップの意義(135P)                               

・学びのあり方の大きな時代の流れは「一方的な知識伝達」から「双方向」へ。自分の言動が場を動かすことを実感すること。「発信の大切さ」。                         

・「体験学習法」①体験(やってみる)⇒②指摘(観てみる)⇒③分析(考えてみる)⇒④概念化(まとめる)⇒初めに戻る、②③④が「ふりかえり」 

・積極的に聴くこと「アクティブ・リスニング」ともいい、カウンセリングの基礎的な技法でもある。

5.ファシリテーター(147P)                               

・「先生」と違って、参加者と同じレベルの水平な存在で全体を見ていて、場のエネルギーを上手く活性化させる存在。「物的豊かさ」から「関係の豊かさ」へのシフト。知恵も力も関係性のなかに生ずる(だから先生か生徒か、という関係性を越えていく必要がある)。一方で、ワークショップにも限界がある。「ワークショップ中毒」に気を付けよう

6.ワークショップの応用

・会議への応用。「円座での会議」「全員が発言者となる」「ブレーンストーム」等、方法やルールを転用することで、会議が変わる可能性がある。4つのプロセスを理解する。 ①情報共有、②広げる、③混沌、④収束

7.「問題解決型」企画のフロー(192P)

 ①事実⇒②解釈⇒③方策の「おでん型」

8.創造的な会議の進行例(195P)                          

 ①会議の目的の明確化:合意形成、どこかに目的を文章化して貼っておく   

 ②参加者の確認 :自己紹介と議事録係のお願い              

 ③全参加者からの一言 :今日話したいことや期待することを30秒でも全員話す

 ④アジェンダ・メーキング :検討すべき項目を出し合って整理する、時間配分、優先順位                              

 ⑤タイムキープ :一度決めたらその時間配分を守れるようキープしながら議事を進行(できれば司会者と別にタイムキーパーを置く)                 

 ➅まとめと共有 : きょうのまとめを全員で

 ⑦次のステップを決める :                       

 ⑧チェックアウト :最後に独り一言、かんたんに                     

 ⑨フォローアップ                            

 ⑩次の招集

9.大人数会議の工夫                              

 ①はじめに質問して挙手してもらう(遠くからの人に拍手するなど)、②休憩前にアンケートとって第2部の導入でそれを使うなど、③終わる前にとなりの人と感想など話し合ってもらう

10.まとめ                              

「問いこそが出発点であり、孤立せず集いあい、問いあう力が必要」ということばが、この本の重要なキーワードであると感じました。また、ワークショップの歴史や意義を体系的に知る事で、自分たちが普段行っている会議等への活かし方について考えることも出来ました。

・特に介護現場の職員さんを対象とした研修等では、「いかに当事者意識を持ってもらうか」が本当に難しいと感じているので、この本は大人数での研修を行う上で、とても参考になりました。 


About the author

斎藤 洋

新潟県在住|介護現場の人材育成支援|介護福祉士・社会福祉士・学士(心理学)・修士(社会福祉学)・日本社会事業大学大学院博士課程在学中| https://twitter.com/hiroshithenet

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