新潟の介護がよくわかる 総合ガイド2017

ブックレビュー『鼻めがねという暴力』林田俊弘(2016)


林田俊弘さんという方がご自身の経験をふまえて書かれたもので、2016年に初版が発行されています。以下、主な内容です。

1、虐待の起こるプロセス

介護現場において、高齢者虐待に至る2つのパターンがあると指摘されています。

①ひとつめは、「まじめな職員が追いつめられて虐待に至ってしまう」パターンです。

②もうひとつは、「知識の少ないひとや若い人が無自覚な虐待をしてしまっている」パターンだそうです。国の報告でも、施設の職員による虐待の要因は、「知識や技術の不足」が最も多く、次が「職員のストレス」となっており、一致しています。

2、背景

虐待は、絶対にあってはいけないこと。しかし介護職も追い込まれてどうしようもなくなってしまったとき、虐待が起こる。「逃げる(辞める)か、闘うか」の状態になってしまっている、と指摘されています。前章の①パターンがこれに該当します。まじめな職員の抱え込みを防がなければなりません。

3、前兆

虐待が起こる前に見られる前兆について述べられています。こうした現象を敏感に察知することで、虐待を未然に防ぐことができるのではないか、と林田さんは述べられています。

具体的な前兆は「友達口調」「ご利用者への命令」「ため息」「舌打ち」「あざけり」「からかい」等です、タイトルの「鼻めがね」は「あざけり」や「からかい」に該当します。たとえ職員に悪気がなかったとしても、ご利用者がどう感じているか。もし傷ついていれば、それはもう虐待です。介護職として、ここをどう捉えるか、とても大事な部分だと思いました。だめなことだと思っていても、その場面で「だめだ」と言えるのか?気づいていても言えない、というパターンが多いのではないかと感じました。

4、経過

発覚と対応…ご利用者の身体にあざが見つかります。おかしいと思い、職員に問いただす場面があります。証拠を集め、市に報告の電話を入れます。施設長として電話を入れたところ、「自発的連絡」ですか?「内部告発」ですか?と聞かれ、逡巡する場面が印象的でした。

5、原因

なぜ自施設で高齢者虐待が起こってしまったのか?

虐待の原因は、人材不足だけでなく、さまざまな状況の変化に対応していく、もしくはその先の予測と対応が不足していたからかもしれない、と林田さんは原因を分析します。

6、虐待を防ぐには?

原因を分析したうえで、林田さんは再発防止策を検討します。

「仕事の目的を共有する」「職員間で声をかける(「散歩してきます、ではなく、最近運動がたりないようなので、とか、自分の考えや根拠を言葉にする)」

「気づきを深める体験、(職員は、自分の感覚を正確に言葉にできていないかもしれない)」

「研修の脳と仕事の脳をつなぐ(大事)」などの防止策が展開されています。

ここは私も研修をやっている身でとても大切な部分なんですが、

「研修で学んだことを実際のケアに生かすのは難しい。これまでの経験が優先されてしまう」

「実際の実践報告だけでなく、目を閉じて実際の利用者を思い出してもらう時間をつくる」と書いてありました。

新しいことを学んでも、それを実践して定着させていくことは、本当に難しいことです。現場での研修は本当にこの現象との闘いです。「場と間」を使い、「振り返りながら」「スモールステップで」やっていかなければなりません。

具体的な現場での学びの実践方法として、以下のような事例があげられていました。

・センター方式(人格、歴史、気持ちを知る、想像する)

・普段の仕事をビデオでとる

・面談(面談のコツは、7割相手にしゃべらせる、2割こっちがしゃべる 1割アドバイス)

ピーエムシーの場合は、ユマニチュードの哲学を高齢者虐待防止研修に取り入れています。

「このようなケアをしてはいけない」だけでなく、「このようなケアが(このような理由で)望ましい」ということを共通認識のもとで学んでいく事が大事だと考えているからです。

虐待に関するたくさんの学びが含まれた、とても良い本だと思いました。


About the author

斎藤 洋

新潟県在住|介護現場の人材育成支援|介護福祉士・社会福祉士・学士(心理学)・修士(社会福祉学)・日本社会事業大学大学院博士課程在学中| https://twitter.com/hiroshithenet

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