「怒っている(認知症の)人にどう声をかけたら落ち着いてもらえますか?」
これは、自宅で介護している家族や施設の職員さんからよく受ける相談です。
私を含め介護の現場では、今まで「怒った認知症の人にどう声をかけたら落ち着いてもらえるか」を一生懸命考えてきました。
でもそれは最近、「無理だ」ということがわかってきました。
当たり前と言えば当たり前なのですが、読者の皆さんも今までの人生、怒ったことが何十回もあると思いますが、そんな時は「こう言ってくれたらすぐに機嫌が良くなる」という言葉があったら、将来のために家族やお友達に教えておいてあげてください。
しかし、なかなかそんな都合のいい言葉はないですよね。だからこそ今は、認知症の人を「怒らせないかかわり」、つまり、相手が安心できるようなかかわわりが大事なのです。
目の前に「歯ブラシで髪の毛をとかしている認知症の女性」がいました。
あなたはどんな風に声をかけますか?
この女性の娘さんは「お母さん、それは歯ブラシですよ。こちらがヘアブラシですよ」と優しく声をかけました。
ところがお母さんは「わかっとるわ、もう言わんとき!」と怒り出してしまったのです。娘さんは、どうしてこんなに優しく教えてあげているのに、お母さんは怒るのだろう、と頭を悩ませてしまいました。
娘さんはお母さんのことが大好きだからすごく優しく声をかけたのに、どうしてお母さんは怒り出してしまったのでしょう?ポイントは、歯ブラシで髪の毛をといでいるお母さんは自身は、「歯ブラシで髪をといでいると思っているのか?」という点です。
認知症の中でも一番多い「アルツハイマー型認知症」は進行すると覚えていたことを忘れてしまうことが特徴で、目の前の物が何であるかわからなくなることもあります。自分なりに考えた結果、間違えて認識してしまうこともあります。
今回のように、「歯ブラシ」と「ヘアブラシ」は形が似ているので、間違ってしまう人もいます。ヘアブラシで髪の毛をといでいると思っているお母さんに、「それは歯ブラシですよ」と『否定』したら、いくら優しく言っても怒るに決まっています。
皆さんも実際に歯ブラシをヘアブラシだと思って髪の毛をといだら、きっと「とぎにくいなぁ〜」と思うはずです。
つまり、お母さんはこの時「とぎにくいなぁ〜」と思っているのです。この場合は「こっちのがとぎやすいですよ」とヘアブラシを渡してあげれば良かったのです。
私たちにとって本当のことを押し付けて、相手を『否定』してしまったから怒らせてしまったのです。
認知症の人に【優しく声をかけること】はとても大事なことです。それと同じくらい大事なのが「思いを理解してかかわる」ことなのです。
渡辺哲弘
1971年5月6日生まれのおうし座のB型、愛知県名古屋市の出身。
信州大学教育学部を卒業後、滋賀県内の障害者施設・高齢者施設
(一般デイサービス・認知症対応型デイサービス・特別養護老人ホーム・老人保健施設・グループホーム)
・居宅介護支援事業所など介護の現場で介護職員・相談員・介護支援専門員・管理者として17年間、介護現場で学ぶ。
平成24年10月フリーの講師として独立。平成25年6月「株式会社きらめき介護塾」代表取締役就任。平成27年4月「一般社団法人きらめき認知症トレーナー協会」設立、代表理事に就任。
現在は研修講師として全国で活動。取得資格/認知症介護指導者・介護支援専門員・社会福祉士・介護福祉士
【きらめき介護塾】 http://www.kirameki3.com/