組織運営において報連相や、法令遵守のためのエビデンス作りは、最も重要である。そのために多くの「気づき」を情報として集める必要がある。
介護保険事業には、多くの求められる記録がある。つくづく大変だが、しっかりとした記録は、後の事業所を助けることにもなる。では、しっかりとした記録を蓄積していくには、どうしたらよいか。
ここでは一つ、事故報告書を通じての事例を検討していきたいと思う。事故報告書を書くにあたって、基本的な「書く理由」を理解する必要がある。現場において事故はあってはならないものだが、あらゆる状況の中で起こりうるものであり、発生してしまったものを再び起こさないようにするためにするための記録でなければならない。
事故報告書の前段となる書類に、ヒヤリハットの書類がある。「ハインリッヒの法則(1:29:300の割合で、事故に対しては、重大な事故の下には、軽微な事故と、多数のヒヤリハットがある」といったものであり、重大な事故を未然に防いでいくには、多くのヒヤリハットの情報を抽出していく必要があるのだ。
そういった観点から自社の運営を振り返ってみたら、事故報告書の件数よりはるかにヒヤリハット報告が少ないことが分かった。ここに課題を見出し、リスクマネジメント委員会を通じて検証を行った。
ヒヤリハット報告書のフォーマットを見直した。チェックボックスを作り、加筆作業の個所を極力減らした。時系列、発生状況、蓄積した情報の振り返りができるような記録を統計的にまとめ、月次単位で周知した。関与する人間の「気づき」の数を増やすことで、事故を減らしていこう、という合意に至った。
結果は短期的に出た。ヒヤリハットの記録が簡素化したことで、問題発生要因の検証が日々の申し送り単位で出てくるような形になり、あわせて結果的に事故報告書自体の枚数が半減するまでに至った。実際に、事故発生も減った。
こうした結果が出たのは、簡素化された書類が業務負担を減らし、必要な連携のスピードを加速させ、多くの「気づき」が互いの連携を強化し、ヒヤリハットの段階で対応、対策がとれるような組織改革を、当事者である職員たちが自ら行うことができていることの証である。こうした成功体験は、組織の雰囲気を良くし、全体の士気が上がる。
書類のシンプル化、スピード感のある運用は「書かなければならない」といった義務感から「書くことで良くなる」という価値観へと転換し、自分たちの取り組みで現場を良くすることができる、本当に重要なものである。